この記事の結論(150秒要約)
【縫い目と金具の完全排除】
外出先での身だしなみを確認する「チャームミラー」。開発初期の複雑な層構造を破棄し、アラスカレザーと紫スエードを二つに折りたたむ「極限の引き算」へと辿り着きました。縫い目(ステッチ)も金属ヒンジも使わず、あえて硬い芯材を入れないことで、革本来のしなやかさを生かした有機的な美しさです。
【見えない磁石と、紫のコントラスト】
磁石を革の内部に仕込み、金具を使わずに心地よい音で吸い付く設計に。カバーを開いた瞬間にだけ、アイボリーの革の裏から「紫のスエード」と、歪みのない本物のガラス鏡が現れます。
【自然なコバとエイジングの同調】
側面(裁断面)はあえて黒く塗らず、無色の専用液だけで磨き上げました。顔料が剥がれるリスクを無くし、真鍮金具のくすみや革のエイジング(経年変化)と完全に同調する、長く愛せる構造を採用しています。
構造の解体と、極限の引き算
カバンのハンドルに揺れ、あるいは胸元でネックレスとしてもご使用いただける「チャームミラー」。外出先でリップを直す、メイク、前髪を確認する。そんな日常の小さな所作を、昇華させるためのアイテムです。
この作品の開発初期、私は割れやすいガラス鏡をアクリル製に。完璧に保護するため、革を重ねた構造を設計していました。しかし、試作を重ねるうちに、その構造とステッチ(縫い目)が、VIEOTYが求める「Quiet Luxury(静かな贅沢)」の滑らかさを損なっていることに気づきました。
美しさは、どこまで削ぎ落とせるか。
私は設計図を白紙に戻し、辿り着いたのが「アラスカレザーと紫スエード」を、シンプルに二つに折りたたむというアプローチです。
切り出したレザーの中央を折りたたむ。するとそこには、ふっくらとした美しい「雫(ティアドロップ)」のフォルムが立ち現れます。
芯材を省いたしなやかさと「パチッ」と吸着
一般的な手鏡やコンパクトには、開閉のための金属製のヒンジ(蝶番)が使われます。しかし、このチャームミラーには金属のジョイントは一切存在しません。
硬い芯材(スライサー)をあえて入れず、アラスカレザー本来のしなやかさと柔らかさを残すことで、折り曲げられた革が元の平らな状態に戻ろうとする「自然な反発力」が生まれます。無機質な部品を排除し、生きた素材である革の有機的な力強さをそのまま開閉する仕組みへと変換しました。
見えない磁石がもたらす心地よい響き
カバーを閉じるためのスナップボタンなどの金具も、外見のノイズとなります。そこで、革の内部の目に見えない場所に磁石を仕込み、完全に封印しました。
開いた状態から指を離せば、革の張力に逆らうように磁石が引き合い、「パチッ」と静かな音を立てて心地よく吸い付きます。視覚的なノイズを削ぎ落とし、触覚と聴覚の心地よさだけを残す。
開いた瞬間の「紫」と、歪みのないガラス
カバーを開いた瞬間に、ブランドカラーが顔を出します。
外装のアイボリーとは対極にある、内装の鮮烈な「紫」。0.7mmのピッグスエードを全面に貼り、指先の触れる柔らかな感触と、日常のふとした瞬間に美しいコントラストを演出します。
そして、その紫の空間の中央に精巧にはめ込まれているのは、軽量なアクリルではなく「本物のガラスミラー」です。割れるリスクを冒してでもガラスを採用したのは、絶対に歪まない「圧倒的な視認性と透明感」が、美しさを確認する道具として必要不可欠だったからです。
あえて黒く塗らない、自然なコバ(側面)
側面(コバ)を漆黒の専用顔料で鏡面に仕上げ、プロポーションを引き締めようと考えていました。しかし、このチャームミラーにおいては、あえて黒で塗りつぶすことをやめました。
アラスカレザーと紫のスエードを貼り合わせたシートが折り重なる、その層の美しさ。それを隠すのではなく、無色透明の仕上げ剤を用いて、摩擦の力だけで無心に磨き上げるのみに留めています。
あえて「無色」で磨き上げた、機能と美学の理由
1. 強度と構造的相性
樹脂を含む顔料(黒)で塗ったコバは、ひび割れや「剥がれる」リスクが伴います。無色透明の仕上げ剤で革の繊維そのものを摩擦で固める仕上げなら、剥がれる概念がなく、擦れるたびにさらにコバが磨かれ、艶を増していきます。
2. エイジング(経年変化)との完全な同調
アラスカレザーは、使い込むことで表面のホワイトワックスが溶け込み、下地の革が飴色へと深く変化していく上質な素材です。一方、顔料(黒)は経年変化しません。
革本体が美しく育っていく中で、コバだけが新品のプラスチックのように黒く取り残される違和感を嫌いました。無色で磨き上げたコバは、革本体の成長や、真鍮リングのアンティークなくすみと完璧なグラデーションで繋がり、有機的に一体化しながらエイジングしていくのです。
カバンから胸元まで、日常に寄り添う
完成した雫型のチャームミラーは、上部の開口部に紐や革のコードを通すだけで、スタイルを変えます。
首から下げてネックレス(クロシェット)として。
あるいは、「普段使いのメインバッグ」の真鍮金具に結びつけ、ハンドルのチャームとして。
表面には、手作業で温められたガストーチの炎による「肉球」の焼き印が、裏面には「VIEOTY」の文字が、それぞれ不確実な濃淡をもって静かに刻まれています。
縫い目も、金具も手放した、極限のミニマリズム。日常の所作に、静かな品格を添えるアイテムが完成しました。







